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「善と悪」「正義」という深いテーマで、強いメッセージ性を感じました。どのシーンも取り方がとても綺麗で見入ってしまいました。心揺さぶられる作品です。

人間は誰でも善の部分と悪の部分を持っていると思います。この映画を見るとあらためてその境界線を感じました。父が自殺したことで実家に帰ってきた明石ですが、父は企業の不正を内部告発したことでみんなの輪を乱したとしてみんなから村八分のような扱いをされて、自殺してしまいます。日本人には、こいうい性質があり正しいことをしてもそれが輪を乱すことなら逆にひどい目に遭ってしまうことがあります。この映画は、そんな日本人の持つ嫌な気質もしっかりと描いています。明石が困っているときに手を伸ばしてくれたのは児童養護施設を営む北村だった。北村は子供を守るためには、犯罪を犯していますが子供を守るためなら何でもするという姿が明石からしたらヒーローのように見えたのかもしれません。犯罪に手を出すことは悪いことなのに、その理由が児童養護施設を守るためという理由が悲しくなります。明石も北村と同じように児童養護施設を守るために悪に染まって行くのが悲しかったです。この映画を見ていると善と悪の境がどこなのかがわからなくなってしまいます。正しいと思っていることも決して正しいわけではない事がわかってきます。映画を見ていると何とも言えない苦しさを感じました。

「復讐は何も生み出さない」「死んだ人は生き返らないし喜ばない」それは誰もが理解していること・・・ただし頭では。もし、最愛の人が、大切な家族が犠牲になったら、私もきっと復讐を誓うと思う。しかし、復讐とは正に負の連鎖。正義の鉄槌を下したような気持ちに酔っても、所詮はそれは犯罪であり、「悪」である。でも実際、人に非道な事をした者がのうのうと生きているのも現実であり、主人公明石が善悪の境界線を見失うのも分かる。それでも、奈々という「光」があったのだから、もっと別の結末があったかもしれないと、私は思う。役者さん達は非常に良い。明石役の阿部新之介さんの弱さ、北村役の安藤政信さんの清濁併せ持った人物像、そして奈々役、清原果耶さんの翳りなど、良いキャスティング。母親役の室井滋さんのくたびれた感じなんか、もう絶品！さすがカメレオン女優。今回は、山田孝之さんが脚本、プロデューサーを担当したというが、最近は役者さんが演出や制作など、裏方に回ることが多くなった。しかし、どうせなら山田さん自身が北村役でも面白かったかもしれないと、山田さんファンの私としては思ってしまう。最後に、何もかもが瓦解し、救いのない結末になるが希望の世界へと旅立つ奈々の幸せをただ願いたい。

今の世の中の善と悪は日本国憲法という自分たちが作り出した法律が元となるもの、その昔は男性が何人もの女性と結婚することだって当たり前だったのですし戦争中には人を殺したからといって牢屋に入れられることはありませんでした。正義とは何か、いろいろと考えさせてくれる作品です。自分にとって大切なものを守る為なら犯罪もいとわない、それが決してゆがんだ道徳観とは思えません。究極で考えれば誰もがそうなのであり、それを敢えて口にして自身に刻み込むことのできる北村に惹かれていくのも当然かもしれません。そんな作品の舵を取るのが山田孝之さん、役者としての彼しか知りませんでしたがプロデューサーとしての腕も本物です。彼のおかげなのか撮影監督の力か、映像が素晴らしかったです。タバコの煙とかおひさまとかすべてが計算されている、昼と夜の対比はそのまま善と悪を意図しているのでしょう。こういった繊細な撮り方は日本人ならではで、ハリウッド映画には無い特徴かもしれません。善と悪なんて人それぞれ考え方は異なるもの、だからこそぼんやりとした終わり方はハッピーエンドの好きな自分としては気持ちももやっとするのですが、これこそが正解なのでしょう。

阿部進之介さんが、父親の自殺によって地元に戻ってきて、自分の意志ではないけれどどうにもならない状況で、静かに1人でもがき苦しむ姿を熱演していてとても良かったと思いました。父親の秘密を探るうちに、日中は孤児の世話をするという善行、夜には自動車泥棒の悪行に手を染める闇のグループに深く関わっていってしまう明石の善と悪の間で揺れる心情を、上手く演じていたと思いました。優しい表情がとても素敵でした。安藤政信さんが、昼と夜で全く別の顔を持つ北村健一をさすがの演技力で演じていて、とてもカッコ良かったと思いました。人間というのは、明石ほどではなくても大なり小なり同じようなジレンマを抱えながら、アクセクしているのではないかと思いました。日常の本質を鋭くついていると思いました。清原果耶さんが、とてもいい演技で奈々を演じていて良かったと思いました。田中哲司さんが、さすがの演技力でほんとに憎たらしい役を見事に表現していて、すごかったと思いました。この映画を見て賢くなければ生き残れない、清く正しくなんていう状態では世の中ではやっていけないのだろうと感じました。一体、何が正義で何が悪なのかについて考えさせられました。小西真奈美さんが、少し地味な感じなのに圧倒的な存在感を放っていてすごく良かったと思いました。佐津川愛美さんが、とてもきれいで純粋で温かい雰囲気が、すごく良かったと思いました。

阿部進之介、安藤政信らという豪華なキャストと町中で見たポスターのデザインがカッコよかったので印象に残りそのまま映画で作品を見ました。主要キャスト含めて、みなさんとても演技が上手く、表情の付け方や台詞回し一つとってもシリアスな感じが上手く出ていて、惚れ込みました。ストーリー展開の雰囲気が暗く、高い演技力が必要とされるものだったのでとても安心して見ることができました。全体のテーマとして、正義とはなんなのか、悪とはなんなのか、命の価値とはなんなのかとそういった根本的でありながらも複雑なテーマを取り扱っており、非常に見てる側も緊迫感がありました。登場人物の心理描写や作中での葛藤などとても上手く描けていたと思います。常にこちらも登場人物になったつもりで物事を考えてしまうくらいのめり込んでしまいました。またこの映画は演出もとても素晴らしく、特に昼と夜などの光の加減など普通では気づかないような細部にいたるまで、かなり丁寧な演出が光っていました。シリアスな映画なので空気感を大事にしていてくれたことがなによりも印象に残り、嬉しかったです。日本の映画がどれもこのくらい高水準なものになればいいなと、本気でそう思わせてくれるような素晴らしい映画でした。